本当の幸せ (2)


”始まりの朝”

−新しい歩みの翌日。
二人の新しい歩みが始まった翌日。
俺とエンネアはソファで抱き合って眠っていた。
もちろんエンネアがピー歳だから性的なことは一切やっていないぞ。
「九郎。ずっとこうしていたいけど、そろそろ起きるね。」
「んーむ、まだ5時じゃないか・・・悪いけど眠いから俺はもう少し寝てるよ・・・エンネア。」
ミスカトニック大学へ行くには7時に起きれば大丈夫なので当然引き続き眠ることにした。
「クスっ」と笑うエンネアの声を聞いたガサゴソと家中を漁る音がした。
その後バタンと言う戸音を立ててエンネアが事務所を出て行ったようだ。
一時間ぐらい時が経ったか、エンネアが小声で「だたいま」と言って帰ってきた。
「んーんー♪」
それからさらに30分ぐらい経った後エンネアの鼻歌と共に芳しい匂いが鼻をくすぐる。
「らーらー♪私はかわいいー♪若奥様〜♪」
以前絶望から解放される前の世界で聞いた聞いてる方がちょっと恥ずかしい、エンネアの作詞作曲した歌だ。
「そしてー♪旦那様はー♪宇宙の中心でロリコンを叫んだ〜♪シャイニング・ガチペ…むぐう〜」
「いや・・・エンネアそれは確かに事実だが近所にその歌を聞かれるわけにはいかんのでな・・・」
まさか、あの歌にこんな続きがあったとは油断ならん…俺は大慌てで起きてエンネアの口を封じた。
「あははー♪冗談だよ〜九郎ーおはよう♪」
「ああ…おはよう。でももう少しちゃんとした起き方がしたかったよ。エンネアさん…。」
予想外の起き方に苦笑いするしかない俺。エンネアに悪意がないだけになおさらたちが悪い。
「ごめんね。九郎〜。お詫びにエンネアの力作のグラタンを作ったよ〜さーさー早く着替えてー」
「ゴクリ…。ヤー!」
とは言っても本能には勝てないのが人間という生き物の悲しい性である。
エンネアの作った極上の匂いのするグラタンの前に俺の負の感情は全面降伏するしかなかった。

「どう?九郎?美味しい?」
「んぐんぐ・・・・うん・・!うまいよ・・・!コレ!」
「えへへへー♪まっかせてー♪」
相変わらずの腕前にキラキラ目を輝かせるエンネアに俺は素直にそう答えた。
俺が一人で暮らしている間スーパーで買った惣菜やファミレスのとは比較にならない。
「シチューにするか迷ったの。どっちもホワイトソースから作るから。」
「シチューと言えばこの世界の前にエンネアが作ってくれたものだよな・・・。アルと一緒に食ったのよく覚えているよ。」
余りにも辛い過去での仮初の共同生活でエンネアが作ったシチューあれもこんな感じの状況だった。アルがいないことを除けば。
「人は過去を亡きものにはできない、でも人は現在(いま)と未来(これらから)に生きるから。エンネアはグラタンを作りました!(ドヤァ!」
「ずいぶんと吹っ切れてますね・・・エンネアさん。」
エンネアのドヤ顔に俺は笑っていいのやら困惑していいのやら、と思ったらエンネアの表情が暗くなった。
「本当はね・・。シチューはアルとも一緒に食べたから・・・九郎がアルを思い出すのが怖かったの・・・。エンネアはやっぱり九郎の一番に早くなりたいから・・・。」
「エンネア・・・。お前・・・。」
やはり、アルという存在は俺にとってあまりに大きいことをエンネアは知っている。だからこちらが本音だろう。
「ごめんね。九郎。忘れてー!忘れてー!恥ずかしいから!それともうそろそろ学校へ行く時間でしょ?」
「あ、いけね・・・!」
相変わらずころころ表情が変わるエンネアへの励ましの言葉を考えつつ、俺は極上のグラタンを胃に流し込んだ。

「九郎。いってらっしゃい。今日は晩御飯も期待しててねー」
「なあ・・・エンネア・・・。」
お見送りの際俺はエンネアを抱き寄せた。
「え?く、九郎?!」
「エンネア。確かに俺の中ではアルの存在は大きい。でもな、お前しかない魅力も沢山ある!だからアルを避けたりせず正攻法でせめて俺の一番になってくれ・・!」
「う、うん!!!」
顔を真っ赤にしながら考えた俺の言葉にエンネアは力強く応えた。
そうして俺は大学へ向かった。
しかし、それは半ば惰性で行く今までの道ではない、これから続くであろう希望に溢れた道と感じた。


                     □ □ □ □ □ □ □ □ □ □                   


”快晴の心”

−大十字九郎探偵事務所

大十字九郎探偵事務所からは絶えず鼻歌が聞こえてくる。
「〜♪〜♪〜♪」
エンネアの心は雲ひとつない快晴。
九郎は受け入れてくれた。
ダメ元で尋ねたけど女として愛してくれるとも言ってくれた。
九郎も寂しかったんだろうけどここまで受け入れてくれた。
「さーさーお掃除お掃除〜♪」
散らかった事務所もいかに九郎が寂しかったかを表しているようだった。
これを自分が綺麗にすることが九郎の寂しさを取り去るようで否応なしで手が進む。
「九郎ったら全然掃除してなかったみたい〜でもエンネアちゃんは負けないよ〜」
壁のホコリを払い。床のゴミを箒ではき、窓を新聞紙で磨く、最後に床の雑巾がけも忘れずに。
まるで魔法のようなエンネアの手つきで大十字九郎探偵「事務所」は三流から一流は・・・流石にもとの設備が設備だから無理だが1.5流ぐらいの事務所になった。
「台所〜台所〜奥様の台所〜♪これからはエンネアちゃんが沢山使ってあげるからね〜♪」
台所は朝食事を作った際に大体は片付けたけど、その時もあまり汚れてなかった所をみると九郎は自炊はあまりしてなかったみたいでここはあまり手はかからなかった。
「さあーさあー最後はお風呂とおトイレを片付けちゃうよ〜♪」
大十字九郎探偵事務所はトイレとバスは一体型のタイプだ一応区切りはされているがアメリカでは割りとよくあるタイプだ。
お風呂は昨日思い切ってサービスしちゃったけど・・・。ちょっとやり過ぎちゃったかな☆反省。反省。(多分)
「うーん。カビか強敵だにゃあー。漂白剤もないし。今度カビ用の洗剤を買わないとねー。」
カビは流石に普通の洗剤では落とすのは難しい。それ以外はほぼ完璧に輝いている。
「さ、最後はトイレ〜♪ちょちょいとー♪」
トイレは洋式なので(アメリカだから当たり前だが)さほど掃除は難しくない。あっと言う間に輝きを放つトイレ。
「ん〜?なにこれ?」
エンネアは黒い箱をみつけた。しかし、それはゴミ箱には見えなかった。それは―。


                     □ □ □ □ □ □ □ □ □ □                   


”大十字九郎の大学生活”

―ミスカトニック大学

「おはようー!いやー今日はいい天気だねー諸君ー!」
「お、おはよう・・・大十字・・・元気がいいのはかまわないがもうすぐ講義が始まるから席につきたまえ。」
アーミティッジの爺さんが既に教室に入っていた。どうやら俺のハイテンションが珍しかったようで周りの同級生達もポカーンとしている。
「ゴーンー!ゴーンー!」とミスカトニック大学のチャイムが鳴る。授業の始まりだ
「で・・あるからしてこのアザトースは・・・(略)・・・・この問に大十字。答えたまえ。」
「はい!答えまーす!それは旧支配者ハスターによる・・・(略)でーす!」
アーミティッジの爺さんにものすごいハイテンションで答える俺。いやーだって今日は気分がいいんだもん。
「・・・・うむ。完璧だ。・・・完璧だがもう少し落ち着いて答えてくれないかね・・。」
大学だから当然寝ている奴も沢山いるわけでアーミティッジの爺さんはそういう輩は基本的に放っておきたい主義なので彼らが起こされると面倒なんだろう。
当の俺も復学してからは良かったが時が経つにつれ寂しさとかでどこか虚ろで惰性的に授業に出ていた。
もちろん前の世界で実践で学んだアドバンテージは大きく即主席に返り咲いた余裕から来たものもあるが。
「ゴーンー!ゴーンー!」昼休みのチャイムが鳴る。
学生たちの大好きな昼飯の時間だ。
いつもは購買部でパンとか買って済ませるのだが、今日は学食を取ることにした。

―ミスカトニック大学の学生食堂
「大十字さん。隣いい座ってもいいですか?」
「おう、かまわないぜ〜!」
同級生の一人:J(男子)が席の隣に来た。
俺は復学した身なので同級生とは言っても皆年下だし加えて俺は主席だから敬語で接してくる奴が多い。
こいつは大人しいが真面目な奴で俺には熱心に教えを請うてくるので仲が良い。
「大十字さん。一体何があったんです・・・?以前から大十字さんは優秀でしたけど今日は憑き物が落ちたというか・・・背中に翼が生えたというかそういう風に見えますよ。」
「はっはっはー!ザッツライト!その通り!今の俺には翼が生えているんだよ!空だって飛べるさー!」
「大十字さん声が大きいですって・・。」
大げさに答える俺に学生食堂にいる皆の視線が集まった。
「あ、いや、失礼しましたー。」
とっさに謝る俺。いくらエンネアが帰ってきたのが嬉しいとはいえ、調子に乗り過ぎはイカンよな。うん。
「九郎ちゃん〜テンション高いね♪前座っていい?」
学部は違うが同級生のB子(女子)が声をかけてきた。
「お、おう・・。」
実のところ言うとこいつはかなり苦手だったりする「九郎ちゃん」と呼ぶのもあるが以前付き纏われたことがある。
どうやら俺に好意を抱いているようだが、かなり強引で清楚さ微塵が感じられない所謂肉食系女子と言うやつだ。悪く言うと●ッチ。
「私があんだけデートとか誘っても心ここにあらずで無反応だった九郎ちゃんがここまでハイテンションなのは見たことないわ〜」
「まあ、いいことがあった。それだけだよ。」
淡々と答えぐいっとコーヒーを飲む。
「ふーん。わかった。女ができたんでしょ?それでもうやったんでしょ?」
ブゥー!!!俺はコーヒーを吹いてしまった。
「アハハハハ!図星?!九郎ちゃんを先に取られちゃった〜」
「まあー私としては男なんか地球上に30億人いるからそれほどショックじゃないけど・・・どんな女・・・?白状しなさい!」
と聞かれてもピー歳の幼女とは答えるわけにはいかない。それにまだ体の関係は持っていない。どう言ったものか・・・
「B子さん。大十字さんが困ってるじゃないですか。」
「じゃあJ君〜好きな男を奪われた私の悲しい心の隙間を君が埋めてくれない♪」
「な・・・何を言ってるんですか〜!」
「からかっただけじゃない〜J君はかわいいわね〜♪」
「ゲホゲホッ!!失礼する・・。」
話が終わらなさそうなので、せっかくフォローしてくれたJには悪いがさっさとこの場を離れるのが得策と判断した。

―ミスカトニック大学屋上

B子の追ってくるのが嫌なのでミスカトニック大学の屋上でやり過ごす。
「大十字さんやっぱりここにいましたか。九郎さんは相変わらず、すごい体力ですね。」
「ああ・・・Jか。ちょっと避難中だ。わざわざ探しに来たのか?」
ミスカトニック大学は半端じゃなくでかいその屋上に来るには相当な体力が必要だ。
「大十字さん。学食の反応を見る限り、やっぱり・・・彼女さんができたんですか?」
「んー半分正解で半分ハズレだ。家族ができたってところかな。」
厳密には帰ってきただがややこしいのでJはの質問にはこう答える。
「大十字さんあんまり言いたくないようですし・・・深く訊くのはやめます。」
「ああ・・・そうしてくれるとありがたい。」
「でも、良かったです。大十字さんが元気になってくれて。大十字さんはご両親を亡くされてずっと一人で生活しているし・・・やっぱりどんな形でも家族がいるということはきっとこれからも大きな支えになってくれますよ。」
「そうだな。Jもバイトをしながら大学に通うのはなかなか辛いかもしれないけど。姉ちゃんやばあちゃんも大事にしてやれよ」
Jは生まれる前に父を、幼い時に母を亡くして姉と祖母と暮らしている。なので俺の寂しさがわかっていたのだろう。ホームパーティーに呼んでくれたこともある。
「大十字さん。いずれ、その家族方を僕にも紹介してくださいね。」
「ああ・・。Jならいつかきっとな・・!さ・・そろそろ降りないと午後の授業が始まっちゃうぜ。」
「いけない、降りましょう。大十字さん。」
「おうよ!」
午後の授業のある教室へ俺達は急いだ。


                     □ □ □ □ □ □ □ □ □ □                   


”どれにする?”

―家路〜 大十字九郎探偵事務所

大学が終わったら俺はすぐに家路についた。
今まではスーパーで惣菜とか買ってたし、奨学金が足りなくなりそうになったらライカさんのところにタカってたから10時を過ぎることもザラだった。
だが今は違う。帰ったらエンネアがいる。そう考えただけで自然と足が軽くなった。
大十字九郎探偵事務所が見えた・・・。俺は足を走らせる。
「ただいまー!・・・・へッ・・・!?」
「おかえり。九郎。ご飯にします?お風呂にします?そ・れ・と・も・わ・た・し?」
バタン。俺は反射的に事務所のドアを閉じてしまった。無理もない。裸エプロンのエンネアが新婚さんのお決まり台詞をいきなり浴びせてきたのだから。
「あーん。九郎のいじわる〜冗談だってば〜それにこれ水着エプロンだよ〜」
ドア越しにエンネアがそう言ってきたので入ることにした。
「エンネアさん・・・。俺はもっとちゃんとした出迎え方をして欲しかったですよ・・・。」
「えー。でもぉ・・・九郎はこういうの好きなのかなと思って。」
エンネアが視線を向けた先には黒い箱があった。
ああーと俺は頭を抱える。
「エンネア・・・あれを見てしまったのか・・・。」
「うん。トイレ掃除の時にね。似たようなシュチュがあったから。」
黒い箱の中は俗にいう「エロ本」と言うものが入っているブラックボックスだ。
俺だってまだ21だから歳相応の性欲はある。だからトイレで「男の生理」をしていたと言う訳だ。
「水着とは言えピー歳のお前にこういうのをさせたと世間様にバレたら・・・俺は前の世界でお前の言っていた石やら腐った卵やらを投げられて後暗く生きるしかなくなるんだぞ・・・。」
男の見られたくないものが見られてしまい、あの家路の足の軽さが嘘のように俺には思い枷がされているようだった
「ごめんね。九郎・・・でもエンネアは・・・早く九郎と夫婦・・・は年齢的にまだ無理だけど・・・九郎の一番になりたくて・・・」
「う・・・」
エンネアに悪気はなかったようだ。良かれと思ってやったことで俺が沈んでいるのにショックを受けて涙目になっている。
これに弱いのが俺という生き物だ。
「え・・?!九郎!?んー!」
「ごめんな。エンネア。せっかくこんなに愛して尽くしてくれる人を泣かすなんてひどい男だよな。これで許してくれないか?」
俺は半ば強引に唇を奪うとエンネアにそう告げた。
「許すも許さないも・・・こっちこそごめんね。九郎。」
そう言って頬にキスしてきた。俺は何も言わず受け入れる。
「じゃあさっきの返答をしないとな。お前は・・・まだ年齢的にダメだから飯にしよう。あとちゃんと服は着るんだぞ。」
「はーい。」
そう言って俺達は食卓へ向かった。

―大十字九郎探偵事務所の食卓

「部屋がすげえきれいになってる!流石だな〜」
「お風呂やトイレもやっておきましたよ。えっへん!でもお風呂はカビは退治できなかったんだけど・・。」
「それでも十分すぎるよ。晩御飯は何?」
胸を張るエンネア、そして俺はワクワクを抑えられなかった。
「じゃーん!今日スーパーで日本食のイベントがあったからキハダマグロのカルパッチョに豆ご飯だよー!」
「うわ!俺のマグロは俺の故郷の素材じゃないか!良くみつけたな〜エンネア。ありがとう!!」
「ありがとうwエンネアちゃんは旦那様を考えれば無限に力が沸いてくるのwだからこんなの朝飯前だよ〜」
エンネアが出してきたの夕食がまさかの日本食という嬉しい不意打ちをくらい喜ぶ俺にエンネアは少し照れくさそうに言った
「本当にありがとうな。いただきますー。」
「いただきますにゃー♪」
そう言って俺達は晩御飯にありついた。
「どう?九郎?美味しいでしょ♪」
「〜〜〜〜〜!うまい!」
「えへへ〜どんなもんだー!」
カルパッチョのにかかっているオリーブオイルのソースの絶妙な味と調和するマグロと新鮮な野菜。
そして豆ご飯の主張しすぎず且つ隠れてもいない絶妙な塩加減。まさにプロの技だ。
俺は豆ご飯をお代わりしてカルパッチョも綺麗にたいらげた。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末様でした。」
「デザートにマンゴープリンがありますよ〜♪お風呂あがりに食べますか〜?」
「いただきます!」
即答するしかないのが俺
「じゃあー先にお風呂に行っててエンネアは後片付けが終わってから水着で行くから♪」
「それはかまわないけど・・昨日みたいなのはやめてくれよ・・・?」
「はーい」
そうして風呂をエンネアと仲良く一緒に入った。
途中昨日のようにエンネアが襲いかかろうとしたけどちゃんと阻止した。
そして風呂あがり〜
「どう?九郎?美味しい?」
「うへ〜うまい〜とろける〜」
風呂あがりの市販のマンゴープリンとは比較にならない極上のマンゴープリンに舌鼓を打つ俺。
「ああー神様、仏様、エンネア様〜。グジュッ」
「九郎ってば大げさすぎ〜嬉しいけどw」
実際一人でいた時とは天と地ほど差がある、充実した生活に俺は涙を流していた。
だが、とある不安を抱いたのでエンネアに聞いてみた。
「エンネア・・・。いろいろやってもらってなんなんだけど・・お金の方は大丈夫なのか?」
「ちゃんと家計簿付けてやってるから大丈夫です!それに割高な惣菜とかよりお金かかってないぐらいなんだよ?
「例えばマンゴーだって綺麗なのは高いから少し傷んだ安いものとか選んでるの。味が落ちるわけじゃないしね。」
「エンネアさん・・・これからもよろしくお願いします〜」
「これからも任せなさい〜♪」
家計簿を見せられた俺は全面降伏するしかなかった。
そして俺は通常の3倍の速さで大学の課題を片付けた。


                     □ □ □ □ □ □ □ □ □ □                   


”謎の干渉”

−大十字九郎探偵事務所のソファ〜の上
時計は11時を指していた。そろそろ寝る時間だ。
今日もソファーで抱き合って寝ることにした。というか寝るスペースがそこしかないからだが。
「九郎あったかーい」
「エンネアもあったかいよ・・・でも・・・」
秋も深まってきたので身を寄せ合うと心地が良い。しかし。
「ねえ・・?九郎・・・?でも何・・・?」
「あ、いや、忘れてくれ・・・。」
俺は顔を赤くしてごまかした。
「もしかして〜九郎〜エンネアちゃんを無茶苦茶にしたいの♪」
「そ、そんなことないぞ・・・!」
図星だった昨日はエンネアが帰ってきたうれしさが勝っていたから感じなかったが今日はふんわりとした女の子と抱き合って寝るわけだから男としての本能が・・・。
「え〜別にいいのに〜」
「いや、ダメだったらだめだ!!」
そう言って俺は本能を押さえつけた。
「ゴホンッ。話は変わるがエンネア。明日休みだからライカさんの教会に行く一緒に来てくれるか?誤解を解かないといけないから」
「あーごまかした〜。」
「俺にも考えがあるんだ。とりあえず質問に答えてくれよ」
「そうなの?んーえっと別にかまわないけど。」
「じゃあ。よろしくな。おやすみ。」
「お休み九郎〜」
エンネアは特に不満もなさそうに答えたので明日はそう決まった。ただあの誤解をどう解くかは悩ましいところだが。「その次」が肝心だ。そうして俺とエンネアは眠りについた。

「―?!」
「九郎も・・?」
俺は夜中に目を覚ました。時計は午前3時を指していた。それはエンネアも同じだったようだ。その理由は・・・。
「ねえ、九郎気付いた?この世界に誰かが干渉したみたい。」
「ああ・・・この世界の何かが変わった・・。」
どうやら何者かがこの世界に干渉したようだ・・・正体は探れないがエンネアもそう感じたのだから間違いないだろう。
「九郎・・・。」
「大丈夫!お前は俺が守る!!必ず!!」
ナイアルラトホテップの可能性もある。そしてエンネアは奴に数えきれないほどの絶望に落とされた経験がある。
だから俺は不安そうなエンネアをしっかりと抱きしめた。ここに俺はいる。離れないと。


                     □ □ □ □ □ □ □ □ □ □                   


”大切な約束”

―ライカさんの教会―
次の日、俺とエンネアは朝食を取った後、夜中に感じた変異の不安の中ライカさんの教会へ向かった。
「ねえ・・・九郎・・・」
「大丈夫だ・・!」
エンネアは相変わらず不安そうだった。俺はエンネアの手をしっかり握っている。
「ライカ・クルセイドさん〜」
少し気まずそうな声でギィィと教会の扉を開けた
「あーロリコンが来たぞー!」
「やーい!ロリコンマン〜」
「九郎お兄ちゃん・・・」
と迎えてくれたのはいつものガキンチョ達だった。
ほっと胸を撫で下ろす俺。でもなんで俺がロリコンだと知ってるんだこいつら。
ライカさんにエンネアのことを聞かされたのか?
「あーガキンチョ共。ライカさんは?」
「私が呼んでくる。」
「頼むぞアリスン」
アリスンは教会の奥へライカさんを呼びに行った。
「はいはい。九郎ちゃん。相変わらずかわいいエンネアちゃんと一緒なのね。」
「こんにちは〜ライカお姉さん」
「相変わらずエンネアちゃんは礼儀正しいわね。」
ライカさんが出てきたので挨拶するエンネア。てなんでライカさんがエンネアの名前を知ってるんだ。
そう疑問に思いつつ食堂に向かった。

「あーライカさん。ってライカさんエンネアの名前言ったっけ?」
「もー。とぼけちゃって。もう今から2年以上前身寄りのないエンネアちゃんを引き取ると言ったのは九郎ちゃんじゃない♪」
ポカーンと口を開けている俺とエンネア。どうやら俺とエンネアの過去が書き換えられたようだ。
「どうしたの九郎ちゃん口を開けて。何?今日もご飯たかりにきたの?」
「あ、いや、ちょっと待ってライカさん。」
と言って俺はエンネアとライカさんに聞こえないように話をする。
「エンネア。これってもしかして。アルが?」
「うん。多分。この世界に本来いないエンネアの過去を作ってくれたんだと思う・・・。」
―妾達もできることは限られるが助けることはできる・・・。―
アルと夢で出会った時のアルが言っていた台詞だ。
「ということは夜中のあれはこういうことか。まったくあの古本娘は・・」
「ねー九郎ちゃん。何エンネアちゃんとこそこそ話しているの?まさか、良からぬことを企んでるんじゃないわよね?」
ライカさんが不審に思って声をかけてきた。
「あーすまない。ライカさん。ちょっとお願いがあるんだ。エンネアは、ガキンチョ共と遊んできてくれ」
「はーい♪」
安心したエンネアはガキンチョ共がいる教会の本堂へ向かった。

今はライカさんと二人きり以前の誤解もなかったことになっているようだし、俺は本当に相談したかったことを言うことにした。
「で結局九郎ちゃんタカるの?相変わらず甲斐性なしね〜」
「いや、真剣な話なんだ。」
普段ふざけた態度を取ることが多い俺だが今回はいつになく真剣な表情をしている。
ライカさんもそれを感じ取ったのか真剣な表情になった。
「ライカさん。俺、エンネアといつかちゃんとした形で籍を入れようと思う。」
「九郎ちゃん・・・本気なの・・・?」
一瞬ライカさんが戸惑った。何せ俺とエンネアは歳がかなり離れているから無理もない。
「ああ・・・エンネアは心から俺を愛して慕ってくれているし、俺もエンネアが好きだからそれに応えてあげたいんだ。」
「私に相談したってことは・・・結婚できる年齢になったらすぐに入籍したいってことね」
「そういうことだよ・・・。もちろんエンネアがその時まで俺を愛し続けてくれてる前提だけどな・・・。」
アーカムシティでは結婚できる歳は16歳だ。
ただし、それは両親の同意がある場合の話で、両親がいない場合は男女共にその歳で結婚するに相応しいと教会や公的機関の推薦がないと入籍できない。
俺は誤解を解くのもあったが本題はこちらだっただけにライカさんの答えを待つ。
ライカさんはかなり難しい表情をした後口を開いた。
「わかりました。エンネアちゃんが16歳になった時にお互いの愛情が本物であることを前提に推薦しましょう。」
「本当か!ありがとうライカさん!」
「ですが・・・!条件があります。」
喜びもつかの間ライカさんがかなり厳しい表情になった。覚悟を決める俺。
「今後一切、ここに食べ物とかをたかりにこないこと。」
「エンネアちゃんが16歳になるまでエンネアちゃんの貞操を守ること。」
「そして九郎ちゃんがエンネアちゃんが16歳になるまでにちゃんとした定職に就き、エンネアちゃんを養えるぐらいの収入を得ていること。」
「そしてこの約束をエンネアちゃんが16歳になるまでエンネアちゃんに言わないこと」
「この4つを守ったのなら推薦人になりましょう。できる?」
ライカさんは「以前の俺」にはかなり難しい条件を提示してきた。
だが―
「ああ・・・!守れるよ・・!」
愛する(エンネア)人がいる俺に迷いは何もなかった。
「お姉さんを失望させないでね。九郎ちゃん。さあ。エンネアちゃんの元へ行ってあげなさい。」
その迷いのない表情をみたライカさんはやさしい表情でそう言ってくれた。俺はエンネアの元へ向かうことにした。
「エンネア。用事は済んだから帰るぞ。」
「はーい。じゃあ、みんなまたね。」
「またねー」
「また来いよ〜」
「またね九郎お兄ちゃん。エンネアちゃん。」
「じゃあ九郎ちゃん。がんばってね。お姉さんは期待していますよ。」
教会の皆は気持よく送り出してくれた。

―家路
「ねえー九郎。ライカお姉さんとなんの話してたの?」
「んー将来のこととかいろいろだな・・・。」
「大切な話?教えてよ〜」
「「今は」駄目だ・・・。言うべき時が来たらちゃんと話すよ。」
「はーい。」
ちょっと不満そうだったがエンネアは俺を信じているのでそれ以上は訊かなかった。
「今日も昼飯も楽しみにしているぞ。エンネア。」
「えへへ♪腕によりをかけてがんばりますよー♪」
エンネアは笑顔で上機嫌そうに言ったのを見ると俺達の家へ手を繋いで向かった。
これから後3年。長いようでこの人と一緒ならあっという間に過ぎ去りそうな気がした。
そして俺は約束を守るため、この笑顔を守るため、明日からもっともっとがんばろうと心に誓った。



続きを読む


戻る